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横浜地方裁判所小田原支部 昭和63年(ワ)516号 判決

主文

一  被告は原告に対し金三六五万三〇二二円及びこれに対する昭和六三年一二月一〇日から支払い済迄年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一三五〇万円及びこれに対する昭和六三年一二月一〇日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は日本経済新聞及び日刊工業新聞の各全国版に別紙第一記載の謝罪広告を別紙第二の条件で一回掲載せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外丸山順雅(「丸山」という)は別紙公開実用新案公報記載の実用新案権(「本件実用新案」という)にかかるニブリング金型機構を考案して、実用新案登録を昭和四七年九月二五日ころ出願したが、そのころ、原告に右実用新案登録を受ける権利を金二〇〇〇円にて譲渡した。本件実用新案は昭和五五年一二月二五日出願公告され、翌五六年一〇月三〇日原告を権利者として登録(番号第一四〇四六六二号)された。

2  本件実用新案の登録要求の範囲は別紙第三記載のとおりで、その構成要件は次のとおりである。

(1) ダイ3に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押さえ5内に擢動自在に嵌合して設けるとともに、

(2) 板押さえ5から突出したパンチボデー1の上端部と板押さえ5との間にスプリング11を弾装して設け、

(3) 前記パンチチップ15を板押さえ5の下端部にて擢動自在に囲繞支持するとともに、

(4) 前記パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押さえ5の下端部内周面との間において擢動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端面が突出自在のパンチヒール19を係合して設け、

(5) 前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に板押さえ5とダイ3により加工材Wを挾圧固定するとともに、少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設け、

(6) 前記パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状を、前記ダイ3のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けた

ことを特徴とするニブリング金型機構。

3  本件実用新案の目的および効果は次のとおりである。

本件実用新案は、ニブリングマシン等におけるダイに対するパンチの横ずれ防止機構にその特徴および効果を有する。

一般にニブリングマシン等に使用されるパンチは、ダイに形成されたダイ孔とほぼ同一寸法の断面形状を有するパンチチップを下端部に備えて成る。かかるパンチを用いて板材を剪断加工する際には、加工したい板材部分をダイ・パンチ間に位置決めした後、パンチ部材をラム等にて打圧しパンチチップの先端をダイ孔に係合させるようにしている。

しかしながら、かかるパンチにおいては、ニブリング加工等の如きパンチチップ片側部のみによる剪断加工時に、パンチチップ先端部が剪断抵抗のない方へ僅かに横ずれしダイと干渉する危険があった。

本件実用新案は、右従来品の欠点に鑑み考案されたものであって、ニブリング加工等の如きパンチ片側部のみによる剪断加工時においてもパンチチップとダイとが干渉する危険のない金型機構を提供したものである。本件実用新案の前記構成によれば、パンチ片側部のみによる剪断加工時には、打ち抜き加工に先立って少なくとも一個のパンチヒールがダイに係合し、加工時にパンチチップに作用する側圧がダイにより受けられるので、パンチチップ先端部の横ずれを防止することができる。

4  被告(当時の商号株式会社コニック社)は、昭和五五年一二月ころから別紙イ号図面及びその説明書に示す構造の金型1 1/4″角シャープルーフ及び1 1/4″丸シャープルーフ(右の二製品を「イ号製品」という)を業として製造し、承継前被告コニック販売株式会社(「コニック販売」という)はイ号製品をそのころ業として販売した。

5  イ号製品の構成は次のとおりである。なお、詳細は別紙第四記載のとおりである。

(1) ダイ3に備えたダイ孔(3a)と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押さえ5内に擢動自在に嵌合して設けるとともに、

(2) 板押さえ5から突出したパンチボデー1の上端部(7)と板押さえ5との間にスプリング11を弾装して設け、

(3) 前記パンチチップ15を板押さえ5の下端部にて擢動自在に囲繞支持するとともに、

(4) 前記パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押さえ5の下端部内周面との間において擢動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端部が突出自在のパンチヒール19を係合して設け、

(5) 前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に板押さえ5とダイ3により加工材Wを挾圧固定するとともに、少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設け、

(6) 前記パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状を、前記ダイ3のダイ孔(3a)の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けた

ことを特徴とするニブリング金型機構。

となって、イ号製品は、本件実用新案の構成要件(1)ないし(6)の全てを具備し、欠けるところがない。

6  よって、被告及びコニック販売(両者を「被告ら」という)のイ号製品の製造・販売は、本件実用新案の技術的範囲に属する実施行為であるから、原告の本件実用新案権を侵害する。

7  被告らの右実施は、遅くとも本件実用新案の出願広告がされた昭和五五年一二月二五日以降、本件実用新案の存続期間が満了した昭和六二年九月二五日まで継続して行われ、その間、被告らは右実施により、少なくとも金一三五〇万円の利益を得たと推定される。

すなわち、原告の当該製品の売上実績は年間約二〇〇〇本であるところ、これに対する被告らのイ号製品のシェアは二〇パーセントであるから、年間売上は四〇〇本と推定され、イ号製品の平均販売単価は五万円であるので、これらに侵害期間約六年九月を乗ずると、総売上高は一億三五〇〇万円となり、これに純利益率一〇パーセントを乗じて推定した。

8  被告らの得た利益は次のとおりである。

(1) 一九八一年一月~三月      一三万一九五〇円

(2) 同年四月~一九八二年三月    四四万九二〇〇円

(3) 一九八二年四月~一九八三年三月 二三万九七五〇円

(4) 八三年四月~ 八四年三月   一四六万五五〇〇円

(5) 八四年四月~ 八五年三月   一一八万七五五〇円

(6) 八五年四月~ 八六年三月   二三九万四二〇〇円

(7) 八六年四月~ 八七年三月   四五六万七七五〇円

(8) 八七年四月~ 八八年三月   二八四万三四〇〇円

合計               一三二七万九三〇〇円

実用新案法二九条一項により、原告の損害は同額と推定される。

9  予備的に、被告が時効を主張する昭和五六年一月から昭和六〇年一一月二一日までは、被告らは原告の財産により実施料相当の利益を受け、原告に同額の損害を与えている。その間の売上は前項の利益の一〇倍であり、これに五パーセントの実施料率を適用して計算すると合計二五〇万七七一〇円となる。

右期間以後の不法行為に基づく損害金は合計八二六万三八七八円である。

10  被告らの本件実用新案の侵害行為により、原告の業務上の信用が侵害された。

11  コニック販売は平成元年一一月二一日被告に吸収合併された。

12  よって、原告は被告に対し、原告の本件実用新案の侵害による損害賠償請求権に基づき、一三五〇万円及びこれに対する不法行為の日以後である昭和六三年一二月一〇日から支払済迄民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金、予備的に昭和五六年一月から昭和六〇年一一月二一日迄の期間については不当利得返還請求権に基づき、二五〇万七七一〇円及びこれに対する利得の日以後である前記昭和六三年一二月一〇日から支払い済迄同様の年五分の割合による利息の支払いを求め、更に、実用新案法三〇条、特許法一〇六条の規定により、別紙第一、二記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、丸山が本件実用新案の考案者かつ出願者であることは認めるが、その余は否認する。

2  同2は認める。

3  同3は知らない。

4  同4のうち、被告が金型1 1/4″角シャープルーフ及び1 1/4″丸シャープルーフを製造し、コニック販売がこれらを販売したことは認めるが、その余は争う。

5  同5ないし8は否認する。被告らの製造販売の売上は次のとおりである。

(1) 昭和六〇年一一月~六一年一〇月末日迄 角一三五二万四九〇〇円、丸八八万二〇〇〇円

(2) 昭和六一年一一月~六二年一〇月末日迄 角九七七万八〇〇円 丸一二六万円

(3) 昭和六二年一一月~六三年一〇月末日迄 角七二八万三〇〇〇円、丸六八万九〇〇〇円

6  同9、10は否認し争う。被告らの製品は粗悪ではないから、原告の業務上の信用を侵害しない。

7  同11は認める。

8  同12は争う。

三  被告の主張

1  本件実用新案の実質的な権利者は丸山であるところ、被告は丸山から、本件実用新案の実施につき許諾を得た。

原告は、本件実用新案が全部公知であることを知りながら、丸山の名をもって出願し、同人から金二〇〇〇円という不当な廉価で権利の譲渡を受け、しかも、他からの異議の申立てを避けるために、権利の譲渡を受けた後も直ちに名義の変更を届け出ず、譲渡の日を昭和六〇年七月三一日と偽って届け出た。よって、形式的な権利者にすぎない原告の本件請求は権利の濫用である。

2  本件実用新案は、その出願前において外国公刊物で全部公知であった。すなわち

(1) 一九六七年二月一五日以前にアメリカ合衆国のユニパンチプロダクツ社において作成された値段表(乙二)には、別紙(1)記載のニブリンダ金型とそのダイが示され、

(2) 一九六八年八月に同社により発行されたカタログ(乙三)には別紙(2)記載のニブリング金型とそのダイが示されている。

(3) 一九六八年九月に同社によって発行されたカタログ(乙四)には別紙(3)記載のニブリング金型とそのダイとが示されている。

(4) 本件実用新案と別記(1)ないし(3)との関係は次のとおりである。

本件実用新案 ダイ3 パンチチップ15 パンチボデー1 板押さえ5 スプリング11 パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17 パンチチップ15の下面より下端部が突出自在のパンチヒール19 別紙(1)、(2)、(3) 13 115 11 15 111 117 119

3  そうすると、本件実用新案は社会に対し何らの寄与をしていないから、その技術的範囲は本件実用新案公報に記載された実施例と図面に限定されるべきである。

4  本件実用新案公報に記載された図面は別紙(4)のとおりであり、被告らのイ号製品は別紙(5)、(6)の各(1)、(2)のとおりであるところ、これらの間には以下の相違がある。

(1) 本件公報におけるスプリング11は所謂丸型の通常のスプリングであるが、別紙(5)のものは角型である。

(2) 前者(本件公報記載の図面、以下同)のスプリング11はパンチヘッド7及びリテーナカラー9の内側に嵌挿されているが、後者(イ号製品、以下同)のものはパンチヘッド7及びリテーナカラー9の外側と同一面を有している。

(3) 前者の板押さえ5の長さとその上部(パンチヘッド7、スプリング11、リテーナカラー9)の長さは、前者が五・一センチメートル、後者が六・五センチメートルであるのに対し、別紙(5)は、前者が八センチメートル、後者が六・五センチメートルであり、その比率が全く異なる。

(4) 前者のパンチヘッド7の頂上が中央に向かって勾配になっているが、後者は水平のままである。

(5) 前者のリテーナカラー9の外周の厚みがパンチヘッド7と同じであるのに対し、後者のリテーナカラー9の外周の厚みはパンチヘッド7の半分である。

(6) 前者の全長が一〇・八センチメートルに対しダイの高さは二センチメートルであり、後者の全長は一七・四センチメートルに対しダイの高さは三センチメートルであり、その比率が全く異なる。

5  時効

原告の本件訴え提起は昭和六三年一一月二二日であるので、原告の請求する損害のうち三年を経過した昭和六〇年一一月二一日以前の分は時効により消滅した。

被告は右時効を援用する。

6  原告は本件実用新案についてその実施品を自ら製造販売したことはない。よって、仮に原告に損害賠償請求権が発生するとしても、その額は実施料相当額に限られるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2のうち、冒頭の本件実用新案が全部公知であったことは否認する。

同2(1)ないし(3)の事実は認める。しかし、実用新案法三条一項三号の「実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案」にいう「刊行物」は「公開を目的として、複製された文書、図面、写真等の情報伝達部材」であるところ、これらの乙号各証は公開性に疑問があり、また、「頒布」されたものに当たるかも疑いがある。更に、「記載された説明」は、「記載された内容により、当業者が容易に実施することができる程度に記載された考案を意味し、少なくとも考案がどのような構成をもっているか示されていなければならない」し、「たとえば、発明品の写真や概要が記載されていても、それから容易に実施できなければ、新規性は失われない」ところ、当該乙号各証はNotch, Nibble and Punch with Unipunch Shear Proop Punch Assenblyの写真と説明が掲載されているのみで、これから直ちに本件考案を想起することは困難である。よって、これらの文書に本件考案が記載されているとはいえない。

(4)については明らかに争わない。

3  同3の主張は争う。全部公知の特許発明について、その技術的範囲を図面と実施例に限定して解釈すべきという見解は特許法七〇条、実用新案法二六条に違反する。即ち、「発明」、「考案」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり(特許法二条一項、実用新案法二条一項、実施例あるいは図面で表現されるような型そのものではない。したがって実施例あるいは図面によってその思想をあますところなく表現することは極めて困難である。そこで特許の技術的範囲は公報の「特許請求の範囲」から離れて解釈することはできず、技術的範囲を実施例又は図面に記載されたところに限定する論は便宜論に過ぎず、なんら合理性がない。

仮に右見解に立つとしても、本件実用新案は既に登録の日である昭和五六年一〇月三〇日から三年を経過しているから除斥期間の経過により、被告らの主張する無効審判の請求は却下されるべきもので(旧実用新案法三八条、昭和六二年五月二五日法二七号〔附則〕四条二号)、原告の権利は確定しているものであるから、本件の場合に適用すべきではない。

また、かかる見解の本来の趣旨は、実用新案公報に記載された「実用新案登録請求の範囲」「考案の詳細な説明」及び「図面」を総合的に検討し、実用新案の技術的範囲をその文言や図面の表している技術的思想のうち、実施例として具体的に開示した技術的思想に限定して解釈すべきとするものである。実用新案公報に記載されている図面は実用新案登録にかかる考案の発明性すなわち技術的思想を表現し、これを理解しやすいように解説するための説明図にすぎない。それゆえ、技術的範囲を実施例に限定することは、公報記載の図面に限定することとはならない。

4  同4の(1)ないし(6)は明らかに争わない。しかしながら、これらはいずれも本件実用新案の技術的思想とは無関係な図面作成に伴う付随的なものである。

5  同5は認める。

第三  証拠(省略)

理由

一  本件実用新案の権利者

丸山が本件実用新案の考案者かつ出願者であることは当事者間に争いがなく、甲一、四、六(成立に争いがあるが、作成者たる丸山の署名があるので、民事訴訟法三二六条によりその真正な作成が推定され、これを覆すに足りる事情はない。)、七(同)、八、乙一七、二四、二六を総合すれば、原告の請求原因1記載の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

よって、原告が本件実用新案の権利者であったことを認めることができる。

二  本件実用新案の内容

請求原因2の事実(構成等)は当事者間に争いがない。

同3の事実(目的、効果)は、甲二によりこれを認めることができ、これに反する証拠はない。

三  被告らの侵害

請求原因4の事実(被告らのイ号製品の製造・販売)は当事者間に争いがない。

同5の事実(イ号製品の構成等)は、甲三、一一、一三、検甲一ないし四の各一ないし一三によりこれを認めることができ、これに反する証拠はない。

四  被告の主張についての判断

1  権利濫用

被告らは本件実用新案の実質的な権利者丸山から実施につき許諾を受けたと主張するが、本件実用新案権が原告に属することは前記のとおりであり、その実質的な権利者を云々する余地はなく、丸山においてなんら実施許諾を与える権利を有しないことは明白である。また、被告がここにおいて主張する事情は権利濫用を理由付けるに足りない。よって、これらを前提とする被告らの主張は理由がない。

2  外国刊行物記載

いずれも井原四郎証言により成立を認める乙二ないし四、五ないし七の各一ないし三によれば、被告らの主張2の(1)ないし(4)の各事実ならびにユニパンチプロダクツ社は、一九六七年(昭和四二年)二月に、別紙(1)のものに、「パンチチップに組み込まれた一つ又はそれ以上のバネ加重された挿入片が加工物によりカバーされないダイ開口部に入り込み、パンチとダイを整序する。七/八インチ角穴のパンチング時には、四つの挿入片すべてはパンチ底面と同一面上にある。」との説明文付の値段表を、一九六八年(昭和四三年)八月に、別紙(2)のものに「四つのバネ加重された挿入片の一つまたはそれ以上がパンチチップに組み込まれ、ダイ中で常にパンチとダイを整序し、パンチのずれを防止する。」との説明文付のカタログを、同年九月には、別紙(3)のものに前記同文の説明文付のカタログを印刷して、アメリカ合衆国内の販売会社に配布したことを認めることができる。

しかしながら、右は別紙(1)、(2)の各写真に簡単な説明を付したもので、記載された内容により、当業者が容易に実施することができる程度に記載された考案とは解しがたい。また頒布性についても、印刷部数等の点につき乙五ないし七の各一、二の記載をにわかに信用することができないので、これを認めるに足りない。

証人井原四郎は、丸山は本件実用新案出願に当たり、自分が考案したものではなく、既に存在した資料から図面化して申請者となったと自認しているなどと供述するが、たとえそうとしても、丸山が参照した文献等につき具体的な立証がなく、提出された文献が先のカタログに止まる以上、公刊物公知を認めるに足りる証拠はなく、被告の当該主張は理由がない。

五  損害及び不当利得

そうすると、被告らのイ号製品の製造・販売は原告の本件実用新案権を侵害したこととなる。

1  不法行為

被告らの昭和五五年一二月二五日から昭和六二年九月二五日迄のイ号製品の製造・販売は、本件実用新案にかかる考案の侵害に該当し、証人井原四郎によれば、被告は昭和五三年の創業以来、各社の製造製品を熟知し、かつ、原告(丸山)の本件実用新案出願についてはこれを知りながらも、公知の考案として異議申立てをするわけでもなく放置していたとの事情が推測されるので、イ号製品が本件実用新案を侵害することについての故意が認められ、不法行為が成立する。

2  時効

被告の主張5の事実については当事者間に争いがない。

よって、原告の主張する不法行為に基づく損害賠償請求権のうち昭和六〇年一一月二一日以前の分は時効により消滅した。

3  不当利得

前記認定に鑑みると、被告らの昭和六〇年一一月二一日以前の侵害行為については、悪意の不当利得が成立する。

4  原告の損害、損失額

森田英雄、内田和行の各証言によれば、原告は本件実用新案にかかる製品を一時期販売したことはあるが、自らは製造せず、関連会社である訴外株式会社アマダツール(その後、同様の関連会社株式会社アマダメトレックスに吸収合併)に無償で実施させていたことを認めることができ、これに反する証拠はない。

そうすると、原告は本件実用新案権者であるが、自ら実施していないので、その販売利益を享受しなかったものであるから、その被った損害及び損失については、実用新案法二九条一項の規定を推定することはできず、本来被告らがイ号製品を適法に実施するに当たって原告に支払うべきであった実施料相当額(同条二項)とするのが相当である。

被告らの昭和五五年一二月二五日から昭和六二年九月二五日迄のイ号製品売上額は、次のように認める。

被告の主張する被告らのイ号製品製造販売額(一部期間)は、請求原因に対する認否5に記載したとおりであるが、この具体的な立証はない。しかしながら、少なくとも右記載のとおりの売上はあったことは当事者間に争いがない。そして、これに原告側の推計である内田和行証言、同証言により成立を認める甲一六を総合して、以下のように算定する。

〈1〉  昭和五五年一二月二五日から昭和六〇年一〇月迄

被告の自認する全期間即ち昭和六〇年一一月から昭和六三年一〇月迄三年分の売上合計額三三四〇万九七〇〇円を四年一〇か月分に換算した五三八二万六七三九円(円未満四捨五入、以下同)と、甲一六による、昭和五六年一月から昭和六〇年三月までの合計売上額三四七三万九五〇〇円に、昭和六〇年四月から翌六一年三月迄の合計売上額二三九四万二〇〇〇円に一二分の七を乗じた額一三九六万六一六七円を合算した額四八七〇万五六六七円を対比して、後者の四八七〇万五六六七円と認める。

〈2〉  昭和六〇年一一月から昭和六一年一〇月迄

被告の自認するとおり合計一四四〇万六九〇〇円

〈3〉  昭和六一年一一月から昭和六二年九月二五日迄

被告が自認する昭和六一年一一月から昭和六二年一〇月迄の一年分売上合計一一〇三万〇八〇〇円を一〇か月二五日分に按分計算した九九四万七八六八円

以上合計金七三〇六万〇四三五円

実施料率については、甲一七により、金属加工機械についての昭和四三年から昭和五二年の最頻値は五パーセントであると認めることができるので、本件につき売上の五パーセントを相当と認める。

そうすると、実施料相当額は前記金七三〇六万〇四三五円に五パーセントを乗じて三六五万三〇二二円となる。

六  謝罪公告

本件全証拠によるも、被告らのイ号製品が原告の製品より劣り原告の信用を害したと認めるに足りない(内田和行証言は、被告らの製品の精度等が把握できないので、修理に際し不都合があったというに止まる。)ので、原告の謝罪広告請求は理由がない。

七  被告の承継

請求原因11の事実は当事者間に争いがない。

八  結論

よって、原告の不法行為、不当利得に基づく金員請求のうち、理由のある三六五万三〇二二円とこれに対する不法行為後でかつ受益の日の後である昭和六三年一二月一〇日以降支払い済迄の民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金ないし利息の支払いを求める限度でこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却する。訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

別紙第一、第二省略

第三

実用新案登録請求の範囲

(本請求の範囲の解釈については甲第二号証実用新案公報記載の図面を参照されたい)

ダイ3に備えたダイ孔と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押え5内に摺動自在に嵌合して設けるとともに、板押え5から突出したパンチボデー1の上端部と板押え5との間にスプリング11を弾装して設け、前記パンチチップ15を板押え5の下端部にて摺動自在に囲繞支持するとともに、前記パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17に、該溝17と前記板押え5の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端面が突出自在のパンチヒール19を係合して設け、前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に板押え5とダイ3により加工材Wを挟圧固定するとともに、少なくとも一つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合し、打ち抜き加工時における側圧をダイ3により受けるために、前記パンチヒール19の下端部をパンチチップ15の下端部より突出して設け、前記パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状を、前記ダイ3のダイ孔の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けたことを特徴とするニブリング金型機構。

(なお本件実用新案権の実用新案公報の「実用新案登録請求の範囲」は、その四行目と五行目がまったくの重複である。特許庁による印刷の過誤と考えられ、本件実用新案の請求範囲については右の五行目は削除されて解釈される。)

第四

イ号図面及びその説明書

一、イ号製品は、甲第三号証第6頁(イ号製品のカタログ)に、1 1/4″丸シャープルーフおよび1 1/4″角シャープルーフとして示されている。

イ号第一図面は、この1 1/4″丸シャープルーフ・1 1/4″角シャープルーフの縦断面図に参照符合を付したものである(両シャープルーフの縦断面図は同一であるので同一図面で示した)。イ号第2図面・イ号第3図面は、前記1 1/4″丸シャープルーフ・1 1/4″角シャープルーフの、第1図におけるⅡ―Ⅱ線横断面図である。イ号第4図面は、前記1 1/4″丸シャープルーフ1 1/4″角シャープルーフの作用効果を示すための説明図である。

二、 イ号製品の説明

イ号製品は、イ号第1・第2・第3図面に示す様に、ダイ3に備えたダイ孔(3a)と係脱自在のパンチチップ15を下端部に固定したパンチボデー1を板押え5内に摺動自在に嵌合して設けるとともに、板押え5から突出したパンチボデー1の上端部(7)と板押え5との間にスプリング11を弾装して設けている。前記パンチチップ15は、板押え5の下端部にて摺動自在に囲繞支持されている。前記パンチチップ15の周囲に設けた適数の溝17には、該溝17と前記板押え5の下端部内周面との間において摺動自在に案内され、かつパンチチップ15の下面より下端面が突出自在のパンチヒール19が係合して設けられている。

そして、前記パンチチップ15による打ち抜き加工時に於て、板押え5とダイ3により加工材Wが挟圧固定されるとともに、少なくとも1つのパンチヒール19がパンチチップ15に先行してダイ3に係合し打ち抜き加工時における側圧がダイ3により受けられるように、前記パンチヒール19の下端部は、パンチチップ15の下端部より突出して設けられている。前記パンチチップ15と複数のパンチヒール19とを含む断面形状は、前記ダイ3のダイ孔(3a)の形状とほぼ同一寸法の形状に形成して設けられている。

イ号製品は右記の構成を特徴とするニブリング金型機構である。

このイ号製品の作用効果をイ号第4図面に基づいて説明する。

例えば、前記パンチチップ15の左側部分のみにより加工材Wを剪断加工する場合には、まずラム等からの打圧によりパンチボデー1・パンチチップ15・パンチヒール19等がスプリング11のバネ力に抗して下方に押される。その際、下方に加工材が存在しない右側パンチヒール19aは、パンチチップ15により剪断加工が行われる以前にダイ3のダイ孔3aに係合する。したがって引き続く剪断加工時にパンチチップ15が、加工材Wからの右方向への側圧により横ずれする危険はない。

なおパンチヒール19は、その頭部19とパンチボデー1との間に弾装したスプリング25によりパンチチップ15下端部から突出されている。したがって左側パンチヒール19は、剪弾加工の際に、加工材Wにより上方に押圧されパンチチップ15内に押し込まれた後、パンチヒール15ともに加工材Wを剪断加工する。

よって、イ号製品によればパンチ片側部のみによる剪断加工時に、打ち抜き加工に先立って少くとも一個のパンチヒールがダイに係合し、加工時における側圧がダイにより受けられるのでパンチチップ先端部の横ずれを防止することができる。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

別紙(1)

〈省略〉

別紙(2)

〈省略〉

別紙(3)

〈省略〉

公開実用新案公報

実開 昭四九―六八七九〇

公開 昭四九(一九七四)・六・一四

ニブリング金型機構

実願 昭四七―一一〇二一〇

出願 昭四七(一九七二)九月二五日

考案者 出願人に同じ

出願人 丸山順雅

秦野市鶴巻字井下一九二〇の一二

代理人 弁理士 三好保男

実用新案登録請求の範囲

ダイ3と円筒型の板押え5に嵌入したパンチボデー1からなる金型機構を設け、ダイ3に係脱自在のパンチチップ15を前記パンチボデー1の下端部に固定するとともにパンチチップ15の周囲に溝17を適当数設け、該溝17にパンチチップ15より先行するパンチヒール19を摺動自在に係合したことを特徴とする、ニプリング金型機構。

図面の簡単な説明

図面は本考案の一実施例を示すもので、第1図は本考案に係る金型機構の断面図、第2図は第1図におけるⅡ―Ⅱ線断面図である。図面の主要な部分を表わす符号の説明、1はパンチボデー、3はダイ、5は板押え、7はパンチヘッド、11はスプリング、15はパンチチップ、19はパンチヒール。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

別紙(4)

図面の簡単な説明

図面は本考案の一実施例を示すもので、第1図は本考案に係る金型機構の断面図、第2図は第1図におけるⅡ―Ⅱ線断面図である。

図面の主要な部分を表わす符号を説明、1…パンチボデー、3…ダイ、5…板押え、7…パンチヘッド、11…スプリング、15…パンチチップ、19…パンチヒール。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

別紙(5)の(1)

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別紙(5)の(2)

〈省略〉

別紙(6)の(1)

〈省略〉

別紙(6)の(2)

〈省略〉

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